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魔轟三鉄傑のあゆみ⑦【封魔級 窮地! 契約絶対!】

魔轟三鉄傑のあゆみ⑦【封魔級 窮地! 契約絶対!】

黒猫のウィズ 魔轟三鉄傑

例によって、バッカレイにナンデモゲロールを飲ませたところ、彼はへらへら笑いながら、目的を明かした。

バッカレイ

あの子はね~お城なんだよ。
お城の魂。

バッカレイ

魔道城塞バラキーファ。
ある魔道民族が、技術の枠を凝らして造り上げた、難攻不落の戦闘城塞さ。

バッカレイ

ウチらのリーダーがそれを手に入れたんだけど、なんとバラキーファの魂が逃げ出しちゃって。
全機能を解放できてないんだよね~今。

その話を聞いたシャティは、ぽかんと口を開け、目を瞬かせていた。

シャティ

私が……城?

“城から逃げてきた”のではなく……
“占拠された城から、魂だけとなって抜け出してきた”というのが正確なところか。

トゥーラ

つまりこの子は、一種の幻獣ってわけだ。

幻獣……ダムザの言ってた、“自立して動く魔力の具現化”ってやつ?

メイフウ

はい。
私の後ろのガイコツくんもそうですが、本来、幻獣は己の意思を持って行動します。
だから自立行動ができるのです。
ね?

ガイコツくん

I don’t know what to do.

なんか言うておるが。

メイフウ

ですがシャティさんの場合、造りだした幻獣に、自分自身の魂を移し替えたようですね。

シャティ

そう……なんですか?
よくわからないですけど……。

トゥーラ

魂の移植なんて、離れ業もいいろこさ。
そのせいで、記憶が混乱してるんだろうね。

敵の首魁は魔道城塞バラキーファにあり。
そして、そのバラキーファこそが、シャティの本体と言うべき存在……。

んじゃ、そこに乗り込んで悪党をやっつければ、シャティが狙われることもなくなるし、あたしたちの名も上がって万々歳って話ね。

うむ。
一路、魔道城塞バラキーファを目指そうぞ!

黒猫のウィズ 魔轟三鉄傑

バラキーファはツィマオツィカ平原にあるという。

一同は、そこを目指して旅を続け、途中で商業都市リポニーに立ち寄った。

あー、おなかすいた。
ねー、まずはごはんにしよーよー。
ごはんごはん~。

トゥーラ

そうさね。
今のうちに今夜の宿を取って、そこで飯を食うとするか。

黒猫のウィズ 魔轟三鉄傑

手近な宿屋に入り、部屋を確保してから、一階の食堂へ向かう。

適当なテーブルに着こうとしたとき、シャティが声を上げた。

シャティ

あっ……あの人!

指差す先--男がひとり、テーブルに着いて食事を取っている。

トゥーラ

ありゃ、例のバリスタ使いだね。

なんと。
偶然とは思えぬな……
どれ、話を聞いてみるか。

一同が近づいていくのに気づいて、男--ルディオは怪訝そうに眉をひそめた。

ルディオ

なんだ、あんたら。
俺に用か?

シャティ

あのっ……!
この前は、その、助けていただいて……。

ルディオ

ああ……あのときの嬢ちゃんか。
きにすんな。
もののついでさ。

ゲスタイガーの城に一撃を加えてくれたと聞く。
おかげでわしらも助かった。

ルディオ

すると、あんたらが魔轟三鉄傑か。
話は聞いてる。
地獄三十六歌仙と戦っているそうだな。

なんでしってんの?

ルディオ

奴らは、あちこちで物を盗んだりと悪さをしてる。
それに我慢ならんって連中は結構いてな。

ルディオ

あんたたちを援護するようにって俺に依頼したのも、そういう類らしい。

依頼?
あんたひょっとして、殺し屋かなんか?

ルディオ

いや。
俺は攻城屋--
つまりは城を落とす専門家さ。

ルディオはニヤリと笑った。

ルディオ

いろんな矢を魔力で具現化させて、ぶっ放す。
そんでもって城を陥落させるのが俺の仕事だ。

なるほどな。
そして、攻城をなりわいとするおぬしが、こんなところにおるということは--

トゥーラ

次の依頼は、バラキーファ攻めってことかい。

ルディオ

そういうことだ。
この都市にいりゃあ、あんたたちが来るだろうから、合流してサポートするように、と頼まれていた。

ならば、力を合わせてぞばりましょう!

ルディオ

ああ、悪いが、ちょいと待ってくれ。
実は最後の準備が必要なんだ。

ルディオ

連中とやり合うには、あるものがいる。

俺の依頼人がこの都市に持ち込んだ代物--
バラキーファ攻略の最後の鍵がな。

黒猫のウィズ 魔轟三鉄傑

昼食を取ったと、ルディオの案内で、都市の広場へと向かった。

そこには、みたこともない機械の乗り物があり、都市の人々が物珍しげな視線を送っている。

なんと。
魔道翼とは、わしも初めて見る代物だ。
これが“鍵”なのか?

ルディオ

俺の依頼人は、あんたたちがこれに乗って城を突撃することを期待してるらしい。
俺はバリスタでそれを援護する。

へえ。
派手でいいわね。
名を上げるにはもってこいだわ。

不敵な笑みを浮かべ、ばきりと指を鳴らすリエンに、ルディオもにやっと笑いかける。

ルディオ

頼むぜ。
あのいけ好かない歌仙どもを黙らせてやってくれ。

シャティ

あの……ルディオさん。

シャティが、おずおずと問いを発した。

シャティ

どうしてそんなに、地獄三十六歌仙にこだわっているんですか?

ルディオ

別に大した理由じゃない。

バラキーファってのは、きれいな城でな。
それを我が物顔であくどいことに使おうとするあいつらが気に食わない。
それだけの話さ。

その言葉に、シャティが、ハッとした顔を見せたとき--

???

そこまでよ!

叩きつけるような大音声が降り注いだ。

コン・センサス

悪いけど、その魔道翼は、正当な契約に則り、このコン・センサスが押さえさせてもらったわ!

ルディオ

なんだと?
いったいなんの権利があってだ。

コン・センサス

この広場の管理者を脅させて契約させたのよ。
この広場の物は、すべてあたしの物として扱うように……ってね!
ほら契約書!

ルディオ

はあ?
なに言ってんだ。
付き合ってられんぜ。

ルディオは顔をしかめ、魔道翼に触れる。

瞬間、ばちりと激しい電流がはじけ、後方へ弾き飛ばされた!

ルディオ

何ッ!?

コン・センサス

これこそ契約の仙ロードを極めし契約魔たる、あたしの仙術!
誰もこの契約に反することはできないのよ!

高らかな叫びに、メイフゥが目を見開いた。

メイフゥ

まさか……そうか!
あなたは--

……地獄三十六歌仙……!

いやどう考えてもそうだし。

メイフゥ

あれ?

コン・センサス

つーかメイフゥ、おまえ同期でしょ。
面接会場から一緒だったじゃん。
なに忘れてんの?

メイフゥ

あっれれー?

とにかく、歌仙だったら遠慮はいらないわね!
とっとと破ってあげるってーの!

リエンは旋風のごとき踏み込んでコン・センサスに肉薄し、問答無用の拳底を放った。

はあっ!

コン・センサス

ぐふう!

打撃を受けたコン・センサスが、猛烈な勢いで吹き飛ばされていく。

ごろごろと激しく地面を転がりながら--
しかし彼女は、壮絶な笑みとともに、手にした契約書を掲げてみせた。

コン・センサス

拇印……もらったり……!

契約書には、くっきりと赤い印が--
リエンの拇印が押されている!

リエンの掌底に朱肉と契約書を合わせた……!?
なんという早業!

確かに--って、だからなんだってのよ。

コン・センサス

甘いわね!
契約は神聖、拇印は絶対!
拇印を押した以上、契約を破ることあたわず!
さあ、リエン・ユー、仲間を攻撃しなさい!

えっ?
んあっ、うそっ、身体が勝手に!?

リエンは、くるりと仲間たちの方を振り向き、本気の構えを取って殴りかかっていく!

コン・センサス

“乙は甲の命令に従う”!
さあ、仲間同士で戦うのね!

ぐ、ぐぬぬぬっ……!
みんな、ごめん!
身体が言うことを……!

そんな、リエンさんと戦うなんて!

向かってくるリエンをガトリンの乱射が吹っ飛ばした。

ちったあ ためらえ!!

ぞばメンゴ~。

ルディオ

ふざけたことしてくれるぜ。
だったらこいつでやってやる!

ルディオはバリスタを地面に設置すると、即座に矢を形成し、コン・センサスに狙いを定めた。

だが。

ルディオ

発射できない……!?

コン・センサス

無駄よ。
そちらのおまえたちも契約済みなの。

ルディオ

なんだと!?
拇印を押した覚えはないぞ!

コン・センサス

甘いわね--
今日の行動を振り返ってみなさい。

言われて、一同、ちょっと考える。

シャティ

なんか……ありましたっけ?

トゥーラ

とりあえず、朝食はキャビアとワインと塩辛だったよ。

メイフゥ

え、なにいいもの食べてるんですか。
女神ずるし。塩辛ずるし。

トゥーラ

まだあるよ塩辛。
明日喰う?

メイフゥ

わーい。
喰います喰いますー。

ふたりは、くるりとダムザを振り向いた。

トゥーラ

はい。

メイフゥ

はい。

あ、もうよい。
では、うむ。
こほん。

まさか、宿帳のサイン!
あれが契約書であったのか!?

コン・センサス

違うわ。

ええー……。

コン・センサス

おまえたち、昼食を採るとき、武器をいったん宿に預けたでしょう。

コン・センサス

私はその武器から指紋を採取し、それで契約書に拇印を押したのよ!
“乙は甲に武器を振るうことができない”とね!

むちゃくちゃだあー!!

コン・センサス

ほほほほほ!
契約はもうひとつ!
“乙は甲の攻撃を避けることができない”!
さあ喰らいなさい契約書ミサイルーーーー!!

無数の分厚い書類の束が、ルディオたちへ襲いかかる--

シャティ

させないッ!!

青白い輝きが、そのすべてを弾き返した。

決然と前に出た少女--
シャティの身体から発した、堅牢無比なる壁となって。

コン・センサス

馬鹿な!
防いだだと!?

シャティ

思い出した……。

輝きに包まれながら、シャティは毅然とコン・センサスを見据えて告げる。

シャティ

そうだよ。
わたしは“城”!
みんなを守るために造られた--
魔道城塞バラキーファ!

シャティ

どんな攻撃だって、防いでみせる!

高らかなその宣言に、ルディオが驚きの顔を見せた。

ルディオ

バラキーファ--おまえが……。

コン・センサス

ええい!
ならば別の契約で--

爆ぜ散るがいい!!

コン・センサスの取り出した契約書が、紅蓮の爆炎に吹き散らされる。

杖を振るってその術を放ったのは、誰あろう--鬼装妖幻術師ダムザ・イナ!

ようやった、シャティ。
あとは我らに任せておけ。

コン・センサス

おまえ--どうして私に武器を使える!?

簡単なことよ。
わしは常に、この魔力法衣にて己が肉体のすべてを覆っておる。

そして--この魔力法衣に指紋はない!!

あ、そうなんですか?

うむ。
作ろうと思えば作れるが、正直、容量の無駄というかな。

コン・センサス

ええい!
契約を結べないなら、力で従えるまでよ!

愚昧なり。

ダムザは笑い、杖を構えた。

契約は神聖と言うたな。
まこと、そのとおりよ。
契約とは、力の強弱にかかわらず、互いを尊重するために結ぶものゆえな。

その本義を理解せず、己の欲のためだけに法と力を利用する--
その罪示す烙印を、うぬが骨身に刻んでくれる!

血涙啜る禍桜、穢業の果てに狂い咲け!

ダムザの放った、嵐めく爆炎の弾丸たちが、コン・センサスの契約書を爆ぜ散らしていく。

コン・センサス

あああ~。
契約書がぁ~~!!

よよよと泣き崩れるコン・センサス。
同時に、リエンの身体にかかっていた圧力がフッと消えた。

おっ。やったわ、契約が消えたみたい!

ぞばばばばばばばばばばばばー!

ちょ、やめ、消えたって、ちょ、こら、あんた、こらっ、こら待てぇーい!!

メイフゥ

拇印を押しただけで強制力を発揮する契約術……。
私が掃除すればなんとかならないこともなかったのですが、まあ出るまでもありませんでしたね。

トゥーラ

あの程度のちゃちな術なら、女神の力を使えばどうとでもなったんだけど、神が契約を守らないってなると世間体が悪いからね。

この役立たーズ!!

シャティに助けられてしもうたね。
おぬし、バラキーファとしての記憶を取り戻したのか?

シャティ

はい。

シャティは、こくりとうなずいた。

シャティ

わたしはまぎれもなく魔道城塞バラキーファです。
これまでのあなたがたの推測は、おおむね当たっています。

記憶を取り戻したためだろうか。
おどおどとした雰囲気が消え、どこか威厳さえ感じさせる口調となっている。

シャティ

もともとは、魔道に優れたツィマオツィカの民が、他民族の侵略から自分たちを守るために築いた、専守防衛のための要塞だったんです。

シャティ

ですが、ツィマオツィカ族は結局、流行り病で滅びてしまって--

シャティ

以来、さまざまな民族、さまざまな国の人々が、バラキーファを取り合うようになりました。

で、今は地獄三十六歌仙の手に落ちたってわけね。

シャティ

はい。
何度も戦いが起こったので、やがて各国は、バラキーファに軍を派遣しないと誓う、ツィマオツィカ条約を結んだんですけど--

シャティ

どこの国にも帰属しない勢力である地獄三十六歌仙は、それをいいことに、悠々とバラキーファを占拠してしまったんです。

ルディオ

追い払おうにも、条約のせいで国は手を出せない。
それを口実にバラキーファを手に入れるつもりじゃないかって他国に疑われるからな。

シャティ

地獄三十六歌仙の狙いは国家侵略です。
バラキーファという条約上の聖域に立てこもり、他国への侵略を行うつもりなんです。

シャティ

わたしは……それが嫌だった。
みんなを守るための城なのに、自分の力がみんなを不幸にするなんて……。

させないわ。

力強い言葉に、シャティは顔を上げる。

その瞳をしっかりと見返し、リエンはうなずいた。

話聞いてたら、むかむかしてきた。
あたしね、そういう卑怯な連中がいっちばん許せないの。

同感なり。
世の国々の奴らが止めえられぬと言うなら、我らが人肌脱ぐしかあるまい。

困っている人がいたらとにかく助ける!
我ら魔轟三鉄傑の、“遠縁の誓い”ですね!

3人の言葉に、シャティは目をうるませた。

シャティ

みなさん……。

トゥーラ

さすがだねー、魔轟三鉄傑。
女神として、あんたたちのことは忘れないよ。

メイフゥ

ぱちぱちぱちぱちぱちー。
あ、散るときは後を濁さないようにお願いします。
跡形もなく爆散するとかそんな感じで。

他人事感!!

ともあれ。

決意を新たに、彼らは彼方なる城塞の方角へ向き直った。

ケリをつけに行くわよ。
魔道城塞バラキーファへ!!

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